Ibanez MT10を購入したがあまり情報がないので調べてみた。
Ibanez の緑色といえばチューブスクリーマー
(画像引用:ギターマガジン 1987年5月号 Ibanez広告リットーミュージック社.)
いつもありがとうございます、フカジです。
緑色の特徴的なこの形(10 POWER SERIES)のエフェクターをリサイクルショップで数千円の値札で発見した。
この形といえばあれですよ、チューブスクリーマーのTS10。
(画像引用:EFFECTOR BOOK VOL39 表紙 シンコーミュージック・エンタテイメント.)
スティーヴィー・レイ・ヴォーンが数年周期でマイブームになる私はテンション上がりまくりです。
TS10はスティーヴィー・レイ・ヴォーンやジョンメイヤー使用でプレミア化、だいたい3万円くらい、それがジャンクでもないのにわずか数千円の値札がついてる!
しかし、よく見るとノブの数が多い、TS10と違う「MT10 MOSTORTION 」?
MT10 MOSTORTIONとは?
この聞き慣れない名前のエフェクター「MT10 MOSTORTION」ググるとあまり情報が出てこないが海外で人気とのこと。
ヤフオクでみてみるとTS10まではないがかなりプレミア価格なエフェクター。
アイバニーズの10の型番POWER SERIES、は捨て値のような物もあるがこれはラッキーと迷いなく購入、昔のギターマガジンなど引っ張り出して調べてみました。
MT10の発売日、特徴、仕様
画像引用:ギターマガジン 1990年10月号 Ibanez広告リットーミュージック社.
Ibanez MT10の発売時期は1990年の9月ごろ
Ibanez公式ページのカタログ確認したところ1990年のカタログには掲載されておらず、1991年のカタログには掲載されていた。
そして、手持ちのギターマガジンを確認すると1990年の10月号の裏表紙近くに掲載されており、ちょうどこの頃(1990年9月頃)発売されたと考えられます。
Ibanez 型番10 (POWER SERIES)は86年ごろ発売され、MT10は最後のラインナップのようで、MT10の発売された1990年の10月ごろにはすでに次の5シリーズ(サウンドタンク、通称ゴキブリ)が発売されています。
したがって、MT10の販売期間はとても短かったと思われます。
こちらはギターマガジン 1990年2月号のIbanez ゴキブリシリーズの紹介ページ。
画像引用:ギターマガジン 1990年2月号 P205 リットーミュージック社.
MT10 MOSTORTION 特徴、仕様
●入力インピーダンス/500KΩ·出力イ ンピーダンス/10KΩ以下
●入力換算ノイ ズ/--110dBv以下(IHF-A)
●最大増幅 率/45dB(at400Hz)
●コントロール/ DISTORTION. LEVEL. BASS. MIDDLE, TREBLE
●端子/INPUT. OUTPUT
●電源/電池S-006Pまたは 別売りACアダプター
●消費電流/ 12mA
●寸法/ 125 ( D)×70(W)×54(H)mm
● 重量/400g(電池含む)
●価格 9000円MOS-FET ICの採用により、チュープアンプ特有のスムーズなひずみと滑らかなサスティーンの表情豊かなオーバードライブ サウンドを実現。
アメリカで設計され、多くのプロミュージシャンたちが称賛の声を惜しまないその迫真のリアリティサウンドをぜひキミも
引用:ギターマガジン 1990年10月号 Ibanez広告リットーミュージック社.
余談ですがスティーヴィー・レイ・ヴォーンがヘリコプター事故で亡くなったのは1990年の8月27日、スティーヴィー・レイ・ヴォーンはTS10を好んで使用、このMT10はたぶん1989年〜90年ごろアメリカで設計されていたと考えるとなんだか感慨深くなります。
ということで、主な特徴は以下のような感じで、2018年のいまでは特にこれと言って突出した特徴はないですね。
- MOS-FET ICの採用
- コントロールにBASS. MIDDLE, TREBLEがある
- 新しい音を作ろうという意気込みが伝わってくるネーミング
もともとはMT10は定価9000円です、ちなみにチューブスクリーマーTS10は定価7500円、いまはもう数万円というプレミアっぷりです。
MT10の音色とネーミング
MT10の音色は?
BASS. MIDDLE, TREBLEのトーンコントロールがついているので幅広く音作りが可能。
このトーンコントロール、万能に効くのではなく、アンプっぽい効きかたというか家にあるブルースJrみたいなバランスですね。
90年ごろの歪み系エフェクターでトーンにBASS. MIDDLE, TREBLEがあるのは珍しいのかも、マーシャル ガバナーぐらいしか思いつかない。
印象としてはディストーションではなくオーバードライブ、スッキリした歪み。
近くにあった他の歪みエフェクターと弾き比べました、別段なにか特別というわけでもなく、弾いていて気持ち良いですが、普通に良いオーバードライブ。
最近のオーバードライブはエフェクターだけでなんだかアンプに繋げたような音がしますが、MT10はやはりアンプありきな感じです。
うーん、もちろん良い歪みだが、定価の倍以上で取引される理由はやはり希少価値か。
MT10のネーミング
MT10「MOSTORTION」モストーション。
ここで少し独自なIbanezのネーミングについて、チューブスクリーマー、真空管が悲鳴をあげている良いネーミングだ。
10 POWER SERIES の多くは分かりやすいネーミング(FAT CATもあるがなんとなくイメージできる)、だがこのMOSTORTIONはわかりにくい。
(画像引用:ギターマガジン 1987年8月号 Ibanez広告リットーミュージック社.)
例えばBOSS、90年ごろ発売された歪みはOS-2、90年(OVERDRIVE/DISTORTION)メタルゾーン MT-2が91年だが、2つとも分かりやすい(笑)
海外は単純明快のようで歪みは全部ディストーションらしく、その感覚でMOS-FET使用のディストーションとしてネーミングしたと思われるがOVERDRIVE/DISTORTIONやメタルゾーンの横にMOSTORTIONが並んでいたら、MOSTORTIONはどんな音か想像がつきにくい。
オーバードライブを買いに来たお客さんならもし試奏したら買うかもしれない、でもディストーションを目当てにきたお客さんだとオーバードライブに近いので同じ10シリーズのメタルチャージャーとかにスーパーメタルとかに行くのではないか。
MOS-FETってなに?なんて思いながらメタルゾーンを手にとってそうだ。
個人的な感覚だがギタリストはシンプルな人が多い気がする、初心者から上級者まで購入することがヒットに不可欠と思うが、販売期間が短いうえにこのネーミングでは買った人も少ないことが推測できる。
Ibanez MT10 使用ギタリスト
私が探しきれなかったってだけとおもいますが、有名なギタリストでMT10を使っているという記事などはでてきませんでした。
※ご存知の方いましたら教えてください。
画像引用:ギターマガジン 1990年10月号 Ibanez広告リットーミュージック社.
なぜMT10はプレミア?
プレミアを定価以上と考え、ギターやエフェクターがプレミア化する理由をここ数年ヤフオクをチェックしながら考えていたが「有名ギタリストが使用した機材」でなおかつ「流通している数が少ない機材」のようだ。
エフェクターがプレミア化する理由
MT10は「流通している数が少ない」の条件は販売期間が短かそうなので満たすと思われるが、有名ギタリストが使用している例が出てこない、なぜヤフオクで2万超えで落札されるような価値があるのか?
このMOSTORTION、最大の特徴はMOSーFETを使っているということ。
今回私フカジの検索力や手持ちの資料では1990年のMOSTORTION以前のエフェクターでMOSーFETを使っているエフェクターを確認することができませんでした。
ということは、世界初のMOSーFETを使った歪みエフェクター(かもしれません)。
※間違えていたこちらからご指摘ください。→ご指摘フォーム
いろいろググっていると2006年ごろの海外のエフェクターフォーラムでMT10について議論がかわされているものがあり、気になる発言をみつけた。
« Reply #21 on: May 24, 2006, 10:29:33 AM »
But the whole MOS-FET thing could really be marketing (i have mush-fets in my peadle lol).
https://www.diystompboxes.com/smfforum/index.php?topic=45480.msg333122#msg333122
90年代中頃にブテックオーバードライブが流行り、火付け役はFULLTONEで参考にしたのはIbanezのチューブスクリーマーの回路、そしてその後沢山のTS系と言われるエフェクターが開発され発売されたとのこと。
2006年頃はあふれるほどTS系が発売され、2003年ごろにでてきたZENDRIVEの爆発的人気で次の歪みエフェクターの元ネタをビルダーは探していたのかもしれません。
そんななか次のヒットを探すエフェクタービルダーたちはTSと同じくIbanezのエフェクターに人気のZENDRIVEに使われているMOS-FET回路のエフェクターIbanez MT10 MOSTORTIONを見つけた、弾数が少ないことも、新しく販売する側から見れば好都合。
MT10は1990年、ZENDRIVE 2003年、Fulldrive2-MOSFETが2007年
フォーラムでの発言「But the whole MOS-FET thing could really be marketing 」が2006年、Fulltone Fulldrive2-MOSFETが発売されたのが2007年。
弾数が少なく海外マニアが探しており、取引価格が上がった、そして海外で人気という情報が日本に伝わってきて日本での取引価格も上がったのかな、なんて私フカジは妄想を膨らませました。
以下引用はFulltoneの創設者でFull-Driveの設計者でもあるマイクフラーのインタビューから。
Fulltoneの創設者でFull-Driveの設計者でもあるマイクフラーのインタビュー
ーーーーーーいくつかある“Full-Drive"のヴァリエ-ショ ン·モデルの中でも“Full-Drive 2 Mosfet”は、な ぜMOSFET (電子部品の種類の1つ)を使うことを 選んだのでしょうか?
マイク·フラー(以降MF) :多くの人が過去のものの方が良いと言うよね。
例えば「1957年のストラトキャスターは最高だ!」 とかね。それは真実でもあるんだけど、そうでないこ ともある。
なぜMOSFETを選んだか、ということだけど、理由はそれが新しいことだったからだよ。
なにか過去とは違う方法、音色をみんなに紹介したかったんだ。クリッピング部分にMOSFETを使うことで、クリッピングした波形は振れ幅が少し大きくてレンジが広い音色になっている。古いFull-Drive" を使っている人に"Full-Drive 2 MOSFET"を試して もらうとほとんどの人がMOSFETモードを最も気に入ってくれるよ。ーーーーーーまずズバリ聞きたいと思います。あなたはチュー ブスクリーマーが好きですか?
マイク·フラー(以降MF) :昔は好きだったよ。今は そうした類のエフェクターが多いから気持ちが変わってしまったけどね(笑)。それはともかく、日本人は本当に凄いよね。僕らは日本人に本当に感謝しているんだ。世界で初めてアッパーオクターヴ·ファズ を作ったのがどこのメーカーか知ってる?ーーーーーー市販化という意味では、日本のハニーが1967 年に作った"Baby Crying"が最初だと思います。
MF : そうだよね。やはり凄いと感心する回路はいつも日本からなんだよ。これは個人的な意見だけど、特に重要なヴィンテージ·エフェクターはほとんど日本が作っていて、我々を刺激してくれるんだ。非常に優れた、美しい設計、仕事だよね。
ーーーーーーチューブスクリーマーも同様でしょうか?
MF:そうだね。非常にシンプルな回路で、本当に素晴らしいエフェクターだと思う。引用:EFFECTOR BOOK VOL39 マイク·フラーインタビュー P.29 シンコーミュージック・エンタテイメント.
あわせて読みたい
酒好きのロック好きにはたまんない、AC/DCのテキーラ、マーシャルのクラフトビール、ポーグスのアイリッシュ ウイスキー、ヨシキやストーンズのワイン…しびれます。
MOS-FET(モスフィット)って?
MT10を知るまでMOSFETのことを私は知りませんでした。
MOSFET FETの一種です。これもやはり入力電圧によって動作するた 、原理としてはバイポーラトランジスタに比較し真空管に近い 動作と言えます。FETと同様にNchとPchがあり、ドレイン·ゲー ト、ソースの3本の足があります。
真空管に近い·一時期パワーアンプを真空管ではなくMOSFETにしているギターアンプが見受けられました。悪くないサウン ドでしたが、いつの間にか市場からは姿を消してしまいましたね。引用:Soul Power Instruments エフェクターの設計と製作 2016年2月29日 初版第1刷発行 執筆 齋藤和徳
MOSFET : FETの一種で金属酸化膜半導体 (MOS)の構造を持ったもののことである。
真空管 の特性に類似しているため、真空管アンプをドライヴしたようなナチュラルなサウンドを得る事ができるとのことで、一部の製品に採用されている。
引用:THE OVERDRIVE 増補 改訂版 2008年4月15日発行 P 127 渡邊博海
その他のMOS-FETを使ったエフェクターとは?
MOS-FETが使用されているエフェクターはFULLTONE、ZENDRIVE、もう少し調べたらMXR EVH5150、最近ではRATの最新FATRATもMOS-FETモードもあるようです。
IbanezのMT10はなかなか売っていないかと思いますが、MOS-FETの音は以下で試せます。
最後までありがとうございました!