PAN PAN HOUSEとの出会い
20数年前、当時知り合いになった長崎出身の人から長崎で開催されたイベントを録画した一本のビデオを借りた。
私フカジがBOOWY好きだとどこかで聞いたらしく、BOOWY好きだったら是非見て欲しいバンドがあるといい、わざわざ貸してくれたのだ。
詳しいイベント名は忘れたが、90年ごろ九州各県で人気のあったバンドが出場しているイベントだった。
記憶に残っているのは2バンドというか「1人」と「1バンド」。
まず1人は、大分県から参加した「ナッティーズ」というバンドのボーカル、その後大活躍のユースケ・サンタマリアだ。
どんな曲を演奏したかほぼ記憶にない。
ボーカルだが歌の記憶がない(笑)しかしすでに名司会者っぷりを発揮していて、その後の大活躍の原型が出来上がっていた。
ユースケさんのあの見事なパフォーマンスは一度見たら忘れられないだろう。
そしてそのイベントのトリに現れたバンドPAN PAN HOUSEだ。
長崎のイベントなので長崎出身のバンドだからトリを務めているのだろうと思って見ていたら、1曲目「この街で生きていく」からいきなり引き込まれた。
しんみりしたイントロに氷室っぽい歌謡メロディ、9thの使い方が布袋っぽいなんて聴いてたら、サビでガーンとやられた。
「ただのBOOWY好きじゃない」って感じた。
「この街で生きていく」に続き曲順は忘れたが、「LAI LAI LAI~風~」「南風に乗った勇士」と立て続けにフックの効いたメロディの曲を連発してくるのだ。
リズム感がよく伸びのあるボーカルの表現力もあるが、まずこのバンドのメロディに一度聴いただけで気持ちを持ってかれる魅力があった。
LAI LAI LAI~風~のフックの聴いたメロディ
そのなかでも特に強烈にフックの効いた「LAI LAI LAI~風~」をまず聴いてほしい、
20年も前の映像なので時代は感じるが、こんな訴えかけてくるメロディはなかなか書けない。
PAN PAN HOUSEは、すでにメジャーデビューしていると聞き、このビデオを観た後すぐアルバムを購入した。
レコーディングされたアルバムより、ビデオで見たライブのほうがいいなと思ったが、歌詞カードをみて驚いた。
ギターの石井寿典さんが全ての曲と詞を書いていた。
1stアルバムなのでアマチュア時代の良い曲を濃縮して選曲されているだろうが、それにしてもメロディが磨かれている。
また、世界観ある歌詞は短編小説を読んでいるようで映像が浮かび、メロディへの言葉の乗せ方も絶妙でシナジー効果を生んでいる。
これはあくまでフカジの想像だが、この磨かれた曲と詞は、ふと浮かんだものではなく、石井寿典さんが何度も何度も自分の内面や想像力と向き合い生み出されてたものではないかと思う。
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短編小説のような「この街で生きていく」の詞
歌詞では「この街で生きていく」が素晴らしい。
布袋さんも影響を受けたイギリスのバンドSQUEEZEの後期のアルバム「Ridiculous」に「Electric Trains」という曲がある。
この曲はSQUEEZEのクリスディフォードがロック・ミュージシャンを目指し始めた少年時代の思い出を自伝的に書いた名曲だが、SQUEEZEが「Electric Trains」を発表したとき、とある評論家が「SQUEEZEのこの1曲を聴けば、もうニック・ホーンビーの小説なんて読む必要はない」といったという。
ニック・ホーンビーの小説とは名作ハイ・フィデリティ(コステロの曲名からとった音楽好き男の物語、映画もヒットした名作)のことで、「長い小説を凌駕する僅か数分の音楽の力」、という解釈だと思う。
※かなり昔の話なので誤解を招くと悪いので書いておきます、ハイ・フィデリティは映画、小説ともに名作、特に小説はなんども読み返すほど好きです。
PAN PAN HOUSEの曲「この街で生きていく」にはSQUEEZEの「Electric Trains」同様の「わずか数分」に無限に込められた「音楽の力」があるとフカジは思います。
「この街で生きていく」のサビ「だだ〜」と歌われる部分、特に「強い思い」を感じ取ることができます。
90年前後の地方のバンドとは
今聴くとなんだかBOOWYやBUCK-TICKっぽいメロディもあるし、歌詞は〜みたいなど思うかもしれないが、
地方のアマチュアバンドが動員を勝ち取っていくには、少ない人口のなかで多く支持を集めるバンド運営が必要になる。
都市部は人口が多いが敵も多く地方とはまた違った厳しさもあるのだろうが、地方バンドは奇をてらったことをしたら、全く客が入らないのだ、まぁ東京に出ればいい話なのだが。
※レピッシュのマグミさんは熊本から東京にでてきて全てが開けた、みたいなことを昔言っていた。
イギリスの例えば数多くのバンドを輩出したマンチェスターに行った友人によれば「ほんとうに何もない」ということだ。
この地方の何もなさがイマジネーションを育み、時に焦燥感をため、才能ある人間に人が集まり中央への向かうエネルギーとなり良いバンドが生まれる。
インターネットもないあの時代、地方のバンドが向かう先はメジャーデビューで、それはメジャーで売れているバンドたちを目指すことになる。
当時地方の普通の音楽好きでも聴くような人気のあった有名なバンドやアーティストの良い部分を吸収しつつオリジナリティを作り上げているPAN PAN HOUSE。
FERNANDESのTEJが大ヒットしBOOWYのスコアが増刷されまくったあの90年前後、都会ではコーネリアスやオザケンが次の時代を見ていたが、多くの地方のアマチュアバンドが作りたかったオリジナル曲はPAN PAN HOUSEの名曲の数々のような曲だと思う。
PAN PAN HOUSEはあの頃の地方バンドの到達点だとフカジは思います。
これだけ名曲を生み出したバンドだけにメジャーデビューし東京に行き、新しいものを吸収したあと、次にどんな作品が生まれていたのか非常に気になっていた。
PAN PAN HOUSEほどセカンドアルバムが聴きたかったバンドもなかなかありません。
最後までお読みくださいましてありがとうございます。
※現在元PAN PAN HOUSEの石井寿典さんは地元長崎で精力的に活動されているようです。
最初で最後の一枚、名盤です。