dip 「ill」との出会い
いちばん沢山聴いたのは次作の「LOVE TO SLEEP」かもしれないが、なにより大きく自分の価値観をかえたのはこのdipの「ill」というアルバムだ。
布袋さんのGUITARHYTHM Ⅱ以降になかなか入り込めなかった自分はBOOWYやGUITARHYTHMⅠのように自分を興奮させてくれる音楽を探していた。
バンドやろうぜに1ページぐらいで新人バンドとして取り上げられていた記憶があったdipというバンド。
ある日ぶらぶらしていた時、TOWER RECORDSでふと見つけ試聴した後、どうしても欲しくなったのでいっしょにいた友人にお金を借りてまでして購入。
今までにあまり聴いたことの無いタイプの音楽で、違和感を覚えながらも聴かずにいられなくなり、毎日朝のタイマーで目覚め、ヘッドホンで聴きながら就寝とプレイヤーにはこの「ill」しか入っていない状態で、ガラッとフカジの耳が変わってしまった。
それからしばらく、ヤマジさんのギターのアレンジや奏法などかなり影響を受けることになる。
dipに出会う少し前にスティービー・レイ・ボーンにちょっと衝撃を受けてていたことと、ヤマジさんがストラトのアメリカン・スタンダードを使っているということで、ギターをストラトのアメスタに買い替え、いまだにそのストラトが健在だ。
次のヒトになりたかった
バンド活動や作曲をしていた当時、自分の創作意欲も高まっていたが、なにかモヤモヤしたものがあり突き抜けられない頃、dipとの出会いはかなり大きく、dipを聴きこんでいれば新しい音が作れるような気がしていた。
結局つき抜けることができず、私は深いアルコールの闇に溺れていくことになったが。
いつまで熱心にdipを聴いていたか、記憶がおぼろげで、リリースされるアルバムは気が向いたものを購入していたのだが、アルコールで麻痺された脳みそは、この高純度の快感を感じる力を私から奪っていた。
ノンアルコールで250日を超え思考がクリアになったいま、紙ジャケでリマスターされていた「ill」を購入し聴いている。
リマスターされているからか、アルコールの澱みがなくなったからかは不明だが、記憶にない音が聴こえる気がする。
より立体的な音像になり、リマスタリングされていることがはっきりとわかる仕上がりだ。
私の思い出話はここまでで、ヤマジカズヒデさんの当時のインタビューから、この独自の音が生まれた背景などを探って行きたいと思います。
ヤマジカズヒデ インタビュー
〜パチパチロックンロール 1995年3月号ーーーギターに興味を持ったのって何が大きなきっかけでした?
中学1年のころクラッシクギター部にはいってた〜〜中略〜〜ラジオでフォークの曲がかかっていたのを聞いて弾いてみようと思った
ーーーエレキギターはいつから?
高校一年〜中略〜ディープ・パープルとかやったり〜中略〜RCとかコピーしたり
ーーーその頃なにのギターをつかってたの?
なぜかテレキャスターを買ったんだよね、でも音がキンキンして嫌だなと思って、下取りにだしてギブソンのSGを買った。
その頃はルースターズとかARB、サンハウス、ロッカーズ、モッズとかを聴くようになって外国の音楽はほとんど聞いていなかったかな?でルースターズが一番気に入ってた。〜中略〜
ーーールースターズは初期の頃と後期とどっちが好きですか?
どっちも好きだな〜中略〜
ーーー「Φ」を出した頃のルースターズってdipに近いようなきがするんですけど?
ちょっとだけね、同じコード進行の曲があるなって思った。でも今の自分のコード感ってスラッジって言うバンドがあったんだけど、そこのギターの人が好きだったの。でDIP IN THE FLAGのベースのイトウといっしょにスラッジに入ったことがあるんだよね。その時にギターの人が「こういうふうに押えてやるといいんだよね」って話をして、その時のコード感がすごい残っているかな
リンク
ーーー開放弦の音を混ぜながら音が動いていく感じ?
そうそう、常に1,2弦の開放の音が鳴っているコード感とかその人の影響かな。
だれも知らない人から影響を受けてるから。ライブの時にその人にロバート・クインとか好きなんですか?って聞いたらメンバーに「バレてんじゃんとかいわれた(笑)」
ーーーロバート・クインとかルー・リード近辺の人も聞いたんですか?
22〜23の頃。でもその頃はリチャード・ヘルのバックでやってるロバート・クインが好きだった。あとウィルコ・ジョンソン。ルースターズとかから、だんだん外国のパンクを聴くようになったのかな
リンクリンクーーーそのころもSG使ってたんですか?
SGを使ってたのは蘭丸が好きだったから、スライダースがかっこいいなと思って。〜中略〜2人が違うアクセントでカッティングしてこれはいいなって思った。そういうような感じでテレビジョンも聴くようになって、〜中略〜あとから考えたら俺ニューヨーク・パンクが好きだったんだなって気がついた。ジョニー・サンダースとかトムヴァーレンとか
リンクリンクリンクーーーストラトキャスターを使うようになったのはいつからなんですか?
DIP IN THE FLAGの後半かな。SGが盗まれて。友達に借りたテレキャスター・カスタムをずっと使ってたんだけど、そのうちストラトと併用するようになって、ストラトで自分好みの勢いがある音の出し方がわかってきて、ストラトがいいなと
ーーー音作りでヤマジ君のこだわりってあります?
前はトレブル10っていう音で常にハウってた。でもやればやるほど正統派のいい音が好みになってきた。〜中略〜
ーーーだから、同じセッティングで他の人がヤマジ君のギター弾いても同じ音は絶対に出ないというか?
うん、あれは弾けない。dipの曲は弾けない気がする。俺がライブの時どれだけ忙しいか知ったらみんな感心するはず(笑)エフェクターを両足で同時に踏んだりするするから。それでも考えないで勢いでライブをやりたいから曲順表にはこの曲とこの曲の間にこのエフェクターのセッティングを変えるとか全部書いてある。
ーーーdipの曲ってもしコピーしようとしたらハードル高いでしょうね?
他に使いようが無いというか。dipの曲をやるしかないんじゃないかな。dipの曲をコピーしてもdipの曲ができるだけという(笑)高校生とか中学生とかで俺みたいな弾き方ができても、みんな「オー!」って思わないんじゃない〜中略〜
ーーーでも、今のコードを混ぜてソロを弾いたりするスタイルってすごいオリジナリティありますよ
あれは3人バンドだから必然的にそうなったの、どうしても単音で弾くとスカスカになるから、開放弦の音を常に鳴らして埋めてたよね〜中略〜
引用:ヤマジカズヒデ インタビュー 聞き手 岡本明、パチパチロックンロール 1995年3月号, p.45, ソニーマガジンズ.
このインタビューを読んだ時、dipに結びついたのはテレビジョンとルースターズかな。
ストリートスライダーズが好きだったということはよくわかりませんでしたが、重ねているギターのアレンジの絡みが曲によりスライダーズっぽいかもしれない。
初めて聴いた時、ここまでギターをかぶせていたらライブのときはどうするんだろうと興味が湧いた。
エフェクターを一度に2個踏むなんてことはやってましたが、両足で同時にエフェクターを踏むなんて技はなかなかできない(笑)
dipはセールス的にはもう一歩だったのかもしれませんが、その後各方面のミュージシャンに影響を与えていたことがトリビュートに参加しているバンドやメンバーからわかる。
現在もdipが精力的に活動してるという話を聞き、自分も奮い立つ。
その後の他のアルバムも聴き直したが、ギターの音が最高に気持ちいい。
最後までお読みくださいましてありがとうございます。