画像:NUMBERGIRL映像集 ジャケット
ナンバーガールのこと
はじめてナンバーガールのライブを見た時、音の塊が鋼鉄の戦車のように押し寄せてくるような錯覚を起こした。
ナンバーガールのメンバーと私フカジは同じ世代で、1999年頃まだ私はバンド活動をしていたが、ナンバーガールのライブをはじめて見た時に圧倒的な才能の差をつきつけられた。
たぶん私フカジと同じ頃にギターを弾き始め、バンド活動を行い、ほぼ同じような音楽を聴いてナンバーガールのメンバーが作り上げたものは、スキのない音と気合の入り方が他のバンドを完全に凌駕する別格の音だった。
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田渕ひさ子独自のギタープレイ
そんな気合の入った音を出していたバンドのギターが小柄な女の子、田渕ひさ子さんだ。
ナンバーガールのメンバーが並ぶと服部〜解散の頃のユニコーンなみにメンバーのルックスがバラバラだ。
個性ある男たちの中でギターを抱え上げ全身でパフォーマンスし、愛器のジャズマスターからの音はその辺の男以上に野太く、そして女性らしいマイルドなニュアンスが絶妙に加わる田渕ひさ子さん独自の音。
田渕ひさ子さんはバンドのdip、ヤマジカズヒデさんからの影響をナンバーガールの頃から公言していて、よく聴いていたバンドにXTCの名前もあげている。
その影響は楽曲の様々なところに顔を出し、トリッキーなフレーズが程よく違和感を与え楽曲を耳に残らせる作用を起こしている。
私が知らないだけかもしれないが、ここまでトリッキーなフレーズを弾く女性のギタリストを田渕ひさ子さん以前に聴いたことがなかった。
田渕ひさ子のギタープレイ、おすすめの曲
狂って候の優しさ
OMOIDE IN MY HEADや透明少女をはじめ名曲ぞろいのナンバーガールだが、田渕ひさ子さんのギターを考えると「狂って候」がまず1番に浮かんでくる。
狂って候という曲は、ハードコア的なリズムに向井さんの絶叫、メロディはほぼないし歌詞も「記憶・妄想・残像」しかよく聞き取れない。
一般的な名曲という基準から大きくズレた曲である。
しかし、私フカジはこの曲のライブバージョンを聴くと9割9分涙が出てくる。
人は切なさや痛みを誰もが経験し、乗り越え歳を重ねていく。
あまりにつらいことは忘れたふりをして、心の奥に固く閉じ込めて出てこないようにする。そして前に進む。
School Girl Distortional Addictに収録されているアルバムバージョンとライブバージョンでは後半部分のアレンジに大きな差があり、ライブバージョンでは田渕ひさ子さんのリードギターが加えられている。
この、ライブバージョンの田渕ひさ子さんの太いジャズマスターのリードが入ってくる瞬間、固く閉じ込めて忘れていたふりをしていた様々な記憶が溢れでてくるのだ。
シンプルだがドラマチックなソロフレーズが、まるで「ぜんぶ話してすっきりしちゃいなよ」と聴く人に(向井さんに?)優しく言わんばかりに、心の蓋をこじ開けてくる。
あらためて3回立て続けに聴いたがやはり3回とも涙がでてきた(笑)
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田渕ひさ子の影響力
数年前仕事帰りの車の中でラジオを聴いていたら、女性ボーカルの曲が流れてきた。
CHE.R.RYのYUIの新曲かな〜って思っていたら、途中からグシャっとした塊のギターコードが切り込んでくる。
YUIではなく「ねごと」というまだ高校生の女の子バンドの「ループ」という曲だった。
高校生の女の子のバンドがこんなギターのフレーズを入れるなんて、アゴが外れそうだ。
きっとお父さんがXTC好きで、年頃になった娘がギターを弾きたいと言い始め、普通は3コードなど教えるのに何を間違ったかブラックシーの1曲目「Respectable Street」のイントロを最初に教えちゃったんじゃないかとか妄想したが、ルーツは田渕ひさ子さんだった。
ねごとのギター沙田瑞紀さんは、ねごと結成前のバンドでナンバーガールをコピーしていたらしい。
高校生の女の子がこんなトリッキーな音を普通に弾いちゃうような感覚にしてしまうとは強烈な影響力だ。
ナンバーガール時代の田渕ひさ子 使用機材
田渕ひさ子さんの音作りの基本は少し変わっている。
アンプからのクリーンをかなりでかい音でセッティングしBOSS BD-2 で音量を下げ基本の歪みを作っています。
そしてソロでTOKAI TDS-1などでブーストさせているようです。
・生音(アンプ)はクリーンででかい
・通常は少しの歪みで生音より少し細い(BD−2を踏みっぱで音量が下がった歪みを作る)
・ディストーションを踏むと生音と同じぐらい大きな音になる
参照:田渕ひさ子 田渕ひさ子の成るなら鳴らねば ギターマガジン2007年4月号 P245 リットーミュージック社
聴く度に涙がでるような音を構成している名機の数々です。
エレキギター
※65年製シリアル番号はL77〜フレットはジャンボフレットへ交換しているがほぼオリジナルとのこと
ーーージャズマスターのチューニングを安定させるには?
私が最初に買ったのはジャガーでしたが本当に大変でしたー!〜〜中略〜〜みなさんにすすめるのはお店の人に相談する、ということ、ムスタングのブリッジに交換したりするのは私は薦めません。戦って欲しいです。〜〜中略〜〜汗だくになって必死に練習していればそのうちいろんなところが錆びてきていい感じに安定してきます。入り口は難しいギターだけどなんとかそこを乗り越えて頑張ってください。ーーージャズマスターを選んだ理由は?
中学2年で初めてどこのメーカーかよくわからないストラトを手にしてからテレキャス、レスポールときてジャガーの形がとても気に入っていたのとお店の店長に薦められてジャズマスターを選んだんですよ。〜〜中略〜〜使いづらいかわいさとコードをジャーンと弾いた時の音の広がりの良さ、アームのかかり具合、上もでるし太い音もでる。などが好きなところです。
引用:田渕ひさ子 田渕ひさ子の成るなら鳴らねば ギターマガジン2005年5月号 P253 リットーミュージック社
以下のリンクはスクワイアーのジャズマスターです。
アンプ
エフェクター
※初期から使用
※SAPPUKEIツアー中に熊本で購入
※TATTOOありのソロなどで使用
出典元:ギターマガジン2014年7月号 P65 リットーミュージック社
そして、最後に田渕ひさ子さんのこの言葉を。
私はいつも本番前、神様が遊びにきますように……と思っています。(私は無宗教です)
参照:田渕ひさ子 田渕ひさ子の成るなら鳴らねば ギターマガジン2007年9月号 P261 リットーミュージック社
NUMBER GIRLのライブや映像、そして田渕ひさ子さんがギターを弾く姿に神々しさを何度も感じた。
音だけ聴いても、例えば「シブヤROCKTRANSFORMED状態」の狂って候のエンディングソロの前、8分刻みに入る直前のフィードバックノイズなんて絶妙のタイミングだ。ロックの神様が憑いているに違いない。
メンバー全員の磨きぬかれた技術に強烈な気合、沢山の壁や困難を乗り越えた人に神様は降りてくる。
最後までお読みくださいましてありがとうございます。
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